2025/2/9-2/15

第71号
上野友之 2025.02.16
誰でも

2月9日(日)

6:30起床。晴れ。

これも資料本として借りた「~果てしない孤独~ 独身・無職者のリアル」(関水鉄平・藤原宏美)、興味深くて全部通読。タイトルが身に沁みますね。

企業の採用活動において重視されるという「コミュニケーション能力」は、「自分の立場を主張する能力」としても解釈できるし、逆に「自分の立場を主張せずに傾聴する能力」としても解釈できる、便利な言葉です。そして「コミュニケーション能力」という言葉につきまとう「あいまいさ」からは、「個人化」に積極的に適応していこうとする方向性と、雇用の不安定化によって崩れつつある企業社会に適応し続けようとする方向性とに引き裂かれている、日本社会の現状が反映されているようにも思えます。
「~果てしない孤独~ 独身・無職者のリアル」(関水鉄平・藤原宏美)

 旧来の、会社や家族といった「集団・組織」を重視する傾向が強まる一方で、集団や組織には頼らず「個人」として生きていくという、一見、相反するように思われるプレッシャーのなかで人びとは生きていかざるを得なくなっているのです。
【中略】 
 結局のところ、個人化という時代のなかで、ますます「個人の選択」が重視される傾向にあり、それが「自己責任」という考えと結びつくことで「自己の責任において選択し、その結果を自己の責任として引き受けること」が、一種の「規範(「みんな従うべきだ」と期待されているルール)」になりつつあるようにみえます。 
 個人ひとりひとりが「自分の人生の主人公」として、自分に立脚した「ライフ・プランニング(人生設計)」、「キャリア・デザイン」、「セルフ・ブランディング(自分のブランド化)」、etc. を選択していかなければならないという考え方が「自己責任」論と結びついて、これほどまでに人びとの意識に浸透したことは、いまだかつてなかったのではないでしょうか。
同上

2013年の本だが、社会が要請するダブルスタンダードに(一部の)人々が引き裂かれるのは今も昔も変わらぬ気がする。

思い立って台所周りを片付け。

出ているものは可能な限り収納し、キッチンとコンロの上には何も置かないようにする。

床に置いてあるものも減らし、動線をスムーズにする。

など。

調理器具も色々欲しくなる。

アイラ・レヴィン「死の接吻」(中田耕治 訳)約20年ぶりに読了。

サスペンスの古典的名作。

内容はほぼ忘れていたが、「視点の切替とプロットが抜群に面白い古典」という記憶は鮮烈に残っており、再読してもその印象は変わらなかった。

第一章では、「彼」が恋人を殺す。名前は明かされない。

第二章では、恋人の姉が、犯人=「彼」を探す。読者も「彼」の名前を知らぬまま、姉と共に容疑者候補の男たちにあたっていく。

そして「彼」の正体が驚きと共に判明。

第三章では、読者だけが正体を知る「彼」が、新しいターゲットに迫っていく。

正体は暴かれるのか、それとも……というサスペンス。

お見事。

アイラ・レヴィンは23歳でこれを書いたという。凄い。

2月10日(月)

6:30起床。晴れ。

43歳になってしまった。

誕生日は、深夜に頭皮が痒くて目覚めるところからスタートしました。

さよなら人生「高尾山へ」、公演情報を公開。

キャストもスタッフも信頼できる人ばかり集まって頂きました。

稽古も本番も楽しみ。宜しくお願いいたします。

情報公開と同日だからか、誕生日のお祝い連絡も多めに貰った。

ありがとうございます。

夜は上野へ。

現在シカゴ赴任中、一時帰国した高校からの親友M君とふぐ屋。

いつからか、二人で会う時はふぐというのが定番になっている。

やはり美味い。特に白子の塩焼き。美味過ぎて追加注文。

アメリカ暮らしのこと、お互いの近況、思い出話、あとは他では絶対言えないエピソードで盛り上がる。楽しかった。

まもなく知り合って30年!

学生時代の友人は限られているし一人暮らしの現状で、10代からの自分の人格を、情けない面も含めずっと知ってくれている存在は、改めて貴重だ。

今は仕事面では遠く及ばないけど、自分も頑張ろうと思う。

二人ともひれ酒で酔っ払い、ふらふらで解散。

誕生日ということで奢って貰ってしまった!ご馳走様。

良い夜でした。ありがとう。

2月11日(火祝)

7:30起床。晴れ。

バーガーキング、図書館、サンマルクカフェなど渡り歩いて作業や読書。

埼玉の陥没事故、運転手の捜索終了との報。

非常に痛ましいけど、事故直後はご本人とやりとりできたというから、例えば山岳救助みたいにヘリコプターから穴に梯子を降ろすなどして助けられなかったのか?と素人考え。

対応批判ではなく、不思議に思う。

アメリカでは山火事相手に為す術がなかったり、これだけ文明が進歩しても事故や災害には弱いままの人類。

ながら作業の時間はpodcastやTver流してたのが、料理系YouTubeを見るようになってきた。

2月12日(水)

6:00起床。晴れ。

kino cinéma新宿で映画『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』をようやく鑑賞。

日本では満席続きだったというが、公開から暫く経ち、わりと空いていた。

まず映画として非常に面白かった。ほぼ、ギャングや詐欺師が主人公のピカレスクロマンの構造。

若きトランプがのし上がり愛を求める前半は、何なら共感すらしてしまう。

後半、父兄や師すら傲慢に切り捨てていく姿は、例えば『ゴッドファーザー』とか『スター・ウォーズ』とか、類似のアメリカ的な神話を思い出す。

ただ空恐ろしいのは、「物語」であれば主人公は重い喪失や転落に至るのに、この人物がアメリカ大統領として我が物顔で現実世界を振り回していることだ。

この虚無。

クライマックスの葬式とのカットバック、構図は完全に『ゴッドファーザー』だけど、あの場面で美容手術を受けるトランプのあまりの薄っぺらさ。

トランプは突然現れた怪物ではなく、資本主義や新自由主義が産み出したカリカチュアであり、軽薄と厚顔を突き詰めれば誰しもなり得る存在、ということがよくわかった。

ロイ・コーン役のジェレミー・ストロングも凄いし役者としては美味しいと思うけど、セバスチャン・スタンが、顔つきやぼってりした体を含めてトランプにしか見えないのもやはりお見事。

編集のテンポも良かったな。

今日の東京新聞夕刊、別個の記事内でトランプに触れた論考が二つ。

山田哲也氏は、

トランプ氏だからというより、そもそも米国は建国以来ほとんどの期間を孤立主義、(相互に干渉しない)モンロー・ドクトリンを打ち出してきたので『世界や国際社会に関わりたくない』という歴史的なDNAがあります


と言い、一方で佐伯啓思氏は、

トランプ大統領にとっては【〜中略〜】穏やかな国際秩序よりも「アメリカ・ファースト」である。
 これは、かつての孤立主義への回帰ではない。世界のなかにあって、米国を再び、しかもできるだけ急速に最強の国家にしようというのだ。実業家イーロン・マスク氏をはじめとするシリコンバレーとの連携もその現れであろう。


と、微妙に異なった見解。

どちらが正しいというより、意見が錯綜すること自体、トランプが齎す混乱にも思える。

セリアで台所の収納グッズや保存容器を色々買って帰宅。

2月13日(木)

7:00起床。晴れ。

やたら風が強い。リサイクルゴミの日で、道路にペットボトルやプラスチックが吹き飛ばされ散乱していた。

夜は改稿に向け諸々考えたく、さよなら人生メンバーに来て貰って本読み&エチュード。

終わって倉田さんと飲む。

各々にとっての、さよなら人生というユニットの位置付けとこれからについて。

前向きにやっていこう。

2月14日(金)

8:00起床。晴れ。

日本推理作家協会(編)「ミステリーの書き方」読了。

ミステリーを集中的に読むようになると、作家の創作過程も気になり。

錚々たるメンバーが並んでいるが、「とにかくたくさん読んでとにかく書き続けろ」というのはほぼ共通の意見のようだ。

以下、ミステリー話とは少しずれるが、なるほどなと思った箇所。

 文章には説明と描写と抽象がある。
【中略】
 芭蕉の「五月雨をあつめて早し最上川」は説明句の見本であり、同じ作者による「夏草や兵どもがゆめの跡」は抽象句である。前者は、雨が降って川の流速が増したと説明しているだけであるのに対して、後者は、単に空間の描写に止まらず、時間軸(歴史)が加わる。わずか十七文字によって膨大な歴史が描かれている。俳句の素養のない者でも、後者の完成度と抽象度の高さはわかるであろう。
「ミステリーの書き方」〜森村誠一「ミステリーと純文学のちがい」


言われてるみるとその通りというか、まさに「俳句の素養のない者」の自分でも、小さい頃から「夏草や〜」の句の悠久感はほぼ無意識レベルで印象に刻まれてるもんなあ。

2月15日(土)

8:00起床。晴れ。

さよなら人生「高尾山へ」改稿、の準備を進める。

そんな日に、なぜか部屋の模様替えを始めてしまった。

「新宿鮫」(大沢在昌)読了。

1990年、自分が小学生時のベストセラー。シリーズ第一作。

「ミステリーの書き方」の大沢さんのインタビューで今さら興味を持った。

当然タイトルは知りつつ読むのは初めて。

ダーティーな刑事ものと思い込んでいたが、寧ろ正義感ゆえ孤立する主人公。

ストーリーも勧善懲悪とまでは言わずとも、わりと真っ直ぐで想像とはだいぶ違った。

そして短い文章も会話もキレがよく、とにかく読みやすい。

Twitter、インプット用のリストを一週間分スクロール。

これに時間がかかり過ぎな気がする。

面白そうな作品や、世間の事象に対する意見を知るために、複数人のアカウントをまとめて非公開のリストにしている。

こっちが勝手にリストにしているのに、自分には興味のないポストが長々連なっていると、「その話題はもういいよ!」などと思ってしまう。

我儘なものだ。


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